Organic 100人の生き方

第6回 | 古屋 千夏

第6回 | 古屋 千夏

ナチュラルに選びとる自分らしく心地よい暮らしから、
彩り豊かな価値の泉が湧き出して拡がる。

緑深き里山そして流れ清き川、犬山の豊かな自然に囲まれ、たたずむ一軒家。天気に恵まれると、こどもたちは裏山で木々や小さな生き物たちとたわむれて時を過ごす。田畑には、ほどよく手をかけられてのびのびと育つ米、小麦、自生する季節の草花。その家の台所では、自ら選んだオーガニックな旬の素材を生かしながら、彩り良く美味しい料理やお菓子をつくる古屋千夏の姿がある。「ロースイーツは、お母さんへのごほうびなんです」。彼女が作り出す料理やお菓子は、野菜や果実がいきいきとその素材の味や美しい原色を輝かせる。植物のもつ酵素や栄養素を壊すことなく身体に取り入れられるよう、生のままや低温で調理するローフードやロースイーツ。古屋はローフードマイスターの資格取得もできるKaya Rawfood school を友人と共に運営しながら、自宅でも自ら創作、デザインしたスイーツやローフード、発酵食やベジ料理も取り入れた料理教室を開催する。男の子二人、女の子一人の三児の母でもある。バイタリティにあふれ、暮らしへの自分なりのこだわりを持つアクティブな女性を想像すると、実際の彼女の静かなたたずまいを意外に感じるかもしれない。古屋は彼女が身を置く犬山の自然のように、豊かさや奥深さを持ちながら、清々しく静やかに日々を暮らす女性である。「思い描いていた生活を、今、現在進行形で送っています」。

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選択はいつもシンプルに。
自分自身の感覚や心の声に素直に耳を傾ける。

高校を卒業した纐纈(こうけつ、現 古屋)千夏は、美容師になりたいと、専門学校に進学。美容師の資格をとり就職し、忙しい日々を送った。「毎日朝早くから夜遅くまで働いていた頃は、自分の生活がどうだとか、あまり考えていませんでした」。休日以外は日が昇れば準備して出勤し、夜が更けるまで勤め先の美容院にこもりきり。そんな自分のライフスタイルに、ふと疑問が浮かぶ。「毎日のように一日中屋内にいるのは、ちょっと違うんじゃないかって思ったんです」。自分の生活にどこか不自然さを感じた彼女は、美容院勤めをいったん辞めることにする。そして、当時の流行の波が重なったことも機会に、自らが好きだった洋服を扱うセレクトショップを営業しながら、山で遊ぶイベントに参加したり、自然に触れる機会を以前より多く取り入れて生活するようになった。彼女が山や自然に触れて心地よい時間を過ごすことを自ずと求めたのは、こども時代からずっと大切にしている、祖父母の住んでいた岐阜県加子母(かしも)村の風景と重なったからかもしれない。「こどもの頃は長い休みに入ると、決まって加子母村で過ごしていました。山や川、田んぼや畑があって、家の庭にはニワトリがいて。今でも年に一度は必ず行きます」。こどもの頃から慣れ親しんだその光景は、彼女のその先の未来の暮らしを導いていくことにもなる。

自らの中に思い描いた暮らしに、焦らず、自分らしく歩みよる。
ナチュラルな選択が、犬山の地へと縁を結んだ。

その後しばらくして結婚した古屋は、名古屋市内に住みながら、焼き菓子やパンを焼いてマルシェに出店するなど、自分のすきなことを自然な形で生活の中に取り入れ、自分らしくシェアしながら穏やかに日々を過ごしていた。「岩倉市に畑を借りて通って、そこで採れたものを素材として使ったりもしていました」。そして、こどもが生まれ、彼女の中にあった暮らしのイメージがより具体的になってきた。「農地とニワトリの飼える庭のある家に家族で暮らしたい」。夫とも相談しながら、こどもたちと自然の中で心地よく暮らせる新たな住まいを探し、縁あって犬山の地に行き着いた。実は、彼女の夫もまた、こどもの頃に祖父母のいる山口県の自然豊かな地で楽しく過ごした記憶とその風景を大切に心に温めていたのである。そんな二人が暮らしの場に選んだ犬山の地には、程なくして古屋の友人でもある佐藤練もやって来て、犬山農芸を開校。彼女の夫は第1期生、彼女は2期生として、有機農をはじめさまざまなことを知り、心地よく時を過ごせる仲間とも出会うことになった。「はじめに夫が参加して、ものすごく楽しそうで。次の年には私も参加しました。学べることももちろんだけど、一緒にいる人たちとの時間がとても居心地がよかったんです」。

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豊かな自然に育まれる家族の暮らし。
自らはスイーツやローフードを創作し、暮らしの中で得た新たな実りをシェアしていく。

古屋家の暮らしは、しみじみと犬山の地になじんでいった。「夫は田畑を世話して、採れたものを私が加工して。こどもたちは裏山で遊ぶこともあります。自然の中で育てられている感じで、少し慎重過ぎるかなと思っていた長男もこちらへ来てからとてもたくましくなりました」。数年前から彼女はローフードについて興味をもち、ローフードマイスターの資格を取得。自らもその資格取得認定校であるKaya Rawfood schoolを友人と共同で運営。ロー(Raw)の素材の力を最大限に生かす調理法でつくるスイーツやローフードの魅力にはまり、発酵食やベジ料理も織り交ぜながら独学でメニューやレシピを創作し続けている。自宅ではそれらに加え、自分の暮らしから得た愉しみや学びも取り入れた料理教室を開く。犬山農芸で臨時講師を引き受けることもある。多岐にわたり活躍しながら、特別なことは何もしていないと、古屋のたたずまいは自然体という言葉がぴったりで、周囲にとっても心地よい静けさを保っている。「地元で採れるものや、自分で選んで安心できるものを使っています。使う素材は、いつも自分の暮らしの中になじんで大切にしているものばかり。料理教室やマルシェが翌日にあると、前日の生活の中で自然と使う粉を挽いている時間があって。自分が暮らしの一部になっている感じですね」。古屋が自ら思い描いて、一つ一つ選びとってきた心地よい暮らしからは、彼女の生み出すスイーツやローフードをはじめ彩り豊かなさまざまな価値が、泉のように湧き出している。そして、料理教室やマルシェなどを通してシェアされ、その心地よさと共に人々の心をみずみずしく潤していく。

「これからも、自分や家族の成長や変化と共に、少しずつ暮らしの形は変わっていくんだろうけれど、これまでのように、自分の感覚を頼りにして進んでいきたいと思っています」。幼い頃から心に刻まれていた豊かな自然の中で、家族や仲間たちと寄り添いながら心地よい日々を過ごす古屋。「子育てがもう少し落ち着いたら、ニワトリも飼えたらいいなと思って。今はまだ、こどもたちのことと家や田畑のお世話も大変なので」。自分の心や感覚に素直に、自分らしく、思い描く暮らしに一歩ずつ近づいていく。そして、自らが感じたことを自分自身で消化するだけでなく、必要な形にして周囲に提供できるのも、彼女の強みである。「マルシェで出店していると、アレルギーを持つこどもたちが増えているのを感じます。大人もこどもも、みんなで一緒に食べられるお菓子をたくさん考えていきたいなと思います」。古屋の暮らしから湧き出す色とりどりの価値は、彼女のやさしい心がその源泉なのだろう。

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