Organic 100人の生き方

第7回 | ギリヤッコ・A

魂の叫びを化した人形を、
出会う人の心に大きな足跡を残すアーティストへと育て上げていく。

2016年7月から始まった犬山オーガニックマルシェ。市民プール跡をユニークに活用し、マルシェそのものはもちろん、音楽やワークショップなど、毎回内容豊かな催しの場に、たくさんの人が集まる。そんな中で、ひときわ存在感を発揮する巨大ガイコツ人形。ジョン・コルトレーンの名曲からその名がついた彼ら“GIANT STEPS”を創り出し、相棒の烏天狗あきや仲間と共に遣うのは、ギリヤッコ・Aだ。3メートル超の特大の彼らとは対照的に、軽妙で愛嬌たっぷりの動きで見る者を惹き付ける小さな鬼や河童、ガイコツたちは“micro Steps”。これも彼女が主に創作し、同様に活動している。ギリヤッコたちはいわゆる“賑やかし”として、大小の人形たちと共に国内各地のイベントに出没。“GIANT STEPS”はその大きさ、動き、見た目の迫力から見る人に独特の驚きや衝撃を与え、“micro Steps”は雨の日の催しや図書館のイベントなどにも出張して場を盛り上げている。どちらもこどもにも大人にも、最初は恐れられながら、いつの間にか愛されている存在だ。ギリヤッコの生み出す人形たちは、一見すると恐ろしいが、じっと見ていると実は愛嬌にあふれ、何だか友達になれそうな気さえする。それは、人形たちが彼女の心の奥の魂の叫びをもとに創られ、家族のように愛され、大切に育てられながらそこにいるからなのだ。

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ルーツは、間近で見られた父親のものづくりと、
自分の心模様を絵や造形で密かに解放していたこども時代。

ギリヤッコが自ら人形たちを創り、それを自在に動かして場を賑やかす道を選んだルーツは、彼女のこども時代にさかのぼる。「ふだんは、そんな賑やかな性格ではないんです。オフのときは、むしろ一人で自己完結したいタイプ。小さい頃も人見知りするこどもでした」。戦後の急速な発展を経て、物質的な豊かさが主流だった世代、ギリヤッコの父親は20代で兄弟たちと自ら看板製作会社を立ち上げ、精力的に働いた。「父親がずっと大切にして壊したがらなかった作業場兼倉庫が、今では私の人形創作の原点になっています」。溶接や色付けなどあらゆる工程を経て、見上げるほど大きな看板が徐々に仕上がっていく。出来上がった看板が運搬のためトラックに乗せられると、何だかそれまでと違い急に遠く小さく感じたのを今でも印象深く覚えている。そんなふうに父親のものづくりを幼い頃から見ていたギリヤッコの中には、知らぬ間にその素地ができていたのかもしれない。こどもの頃から彼女は、絵を描き、ものを創った。しかしそれは親には決して見せない、彼女だけの秘密の作業だった。「なんとなく、ほめられないことのような気がして。当時の雰囲気は、実利的なものが良しとされる感じだったから。だから自分の心のさまざまな感情の発散として、人知れずものを創り、絵を描いていました」。

創ったものを動かす面白さと喜びを知った芸術団体での活動。
インターネットで海外の動画に映った巨大人形への衝撃と憧れ。

社会人になり、会社勤めをしながら人形劇を中心とした芸術団体に参加して活動を始めたギリヤッコ。自分が創ったものが動く面白さや喜びを知ると共に、舞台演出や芝居に関するさまざまな知識や技術を学び、人前で何かをするという独特の緊張感と解放感を存分に味わっていた。そんな生活が何年か続き、自身もややマンネリ化した状況を感じ始めていた頃、インターネットで海外の動画を見ていたギリヤッコは、その画面に思わず見入った。「何だ、これ!?」そこには数メートルはあると思われる巨大な人形が映り、雄然と動いていた。「私もこんなのを創りたい!そして、動かしたい!」素材はペットボトルを主に使って作られていた。ギリヤッコは早速素材となるペットボトルを集めることから始め、3ヶ月ほどかけてオリジナルの巨大人形を創り上げた。「だいちゃんと言って、人間の形をしてるけれど、見た目はなかなか恐いですよ。頭がさみしいので風車も付けたら、全長は5メートルになりました。芯棒を立てて、手と足をそれぞれ動かすので5人がかりです」。そんなギリヤッコの初めての巨大人形は、彼女の参加する芸術団体による東日本大震災の復興支援公演で、役を与えられ出演することになるのだった。

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人形への想いの深さに気づき、独自で活動していくことを決意。
その頃、よく聴いていたコルトレーンの運命的な一曲。

東北での公演では、ギリヤッコ自身は別の役があり、巨大人形だいちゃんは別のメンバーが動かすことに。彼女は自分の人形がちゃんと動くか、一人の家族のことのように心配しながら見守った。無事に公演が終わりホッとしたものの、他の大道具と同様に扱われる人形を見て、いたたまれない気持ちになる自分がいた。帰りの車内で、ギリヤッコは自身の人形に対する思い入れの強さを改めて自覚。「自分で人形を創り、動かしてやっていきたい」と、独自で活動していくことを決めた。その時期、頻繁に聴いていたのが、ジョン・コルトレーンの“GIANT STEPS”。「これだ!」と巨大人形とその活動の名称も運命的に決まった。「だいちゃんは5人がかりだったので、活動毎に誰かにサポートを頼まなくてはならなくて。頼んでやってもらうことに、なんとなく心苦しさもあって、一人でも動かせる人形を創ることにしました。ちょうど前から家にあった発泡スチロールの箱がガイコツに似てるなぁと思っていたことから閃き、2週間ほどで完成させました」。それが今犬山のオーガニックマルシェを始め、各地でも活躍している巨大ガイコツ人形だ。そして活動が本格化し、ギリヤッコは長年さまざまなことを教わった芸術団体を去り、勤めた会社もついに辞めて独立。自らの分身ともいえる大切な人形たちをアーティストへ育てていく道を歩み始めた。

「これまでは主に賑やかしとしてやってきましたが、今後はこれまでに学んだ舞台演出や芝居の経験も生かして、感情表現を取り入れたり、人の心を揺さぶる、感動を生み出せる人形たちにしていきたい。私も相棒も年を重ねて、これから縮小していくのかなと思っていたら、自分からやりたいと言って仲間が集まってきてくれて。楽しみになってきました」。今年は国内最大級の人形劇イベントである“いいだ人形劇フェスタ”にも参加し、活動の幅を益々広げている。そんなギリヤッコは、犬山農芸の生徒でもある。「農芸に来て、季節の移り変わりを五感で味わって、自然や季節それぞれのイメージが10倍くらいに膨らみました。また、自分自身の内面を再認識したり、昔から脈々と人がつながって今自分がここにいることを改めて意識しました。自分で作物を育てることを今後も続けながら、農芸での経験がどう人形の創作や遣い方にも影響してくるのか、私自身も楽しみです」。人形たちと共にギリヤッコもまた、大きな一歩を踏み出し、日々着実に新たな歩みを重ねている。

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